「ドローン」は自動車の運転免許証といったような資格を取得していないと扱えないものではありません。
基本的に資格を取得していなくてもドローンの操縦は可能ですし、技術と知識が備わっていれば仕事をすることも可能です。
一定の知識や技術を習得するために資格が存在しており、これからそれらを身につけようと考えている人は資格の取得に励むのもいいでしょう。
しかし、今回ご紹介する「産業用マルチローター技能認定」は他のドローンに関連する資格とは少し毛色が異なります。
その他の資格に関してはたとえ未取得でも仕事ができますが、産業用マルチローター技能認定は取得していないと農薬散布といった特定の業務が行えません。
ドローンに関連する仕事の中で農薬散布がありますが、これについては資格の取得が必須となります。また、ドローンの操縦知識だけではなく、農薬散布に関する知識も必要です。
今回はドローンに関連する資格の1つ「産業用マルチローター技能認定」について解説していきます。農業分野でドローンを扱う仕事がしたい人は参考にしてみてください。
産業用マルチローター技能認定の概要
まず「産業用マルチローター技能認定」を発行している組織について紹介します。こちらの資格は「一般社団法人農林水産航空協会」によって運営されています。
農林水産航空協会は、農林水産業における航空機による農薬などの散布の他、航空機を利用する事業の発展を目的に発足しました。
ドローン(マルチローター)を農薬散布などに利用する上で安全性と効率性を推進するという方針で農林水産業の安定生産や生産性の向上に貢献しています。
事業内容の1つに「農林水産航空事業の安全な実施にかかる教育研修並びに機材の検定事業」が含まれており、産業用に使用される無人航空機の教育研修や認定事業も行っています。
なので、「産業用マルチローター技能認定」についての情報は農林水産航空事業の公式サイトを参考にするとより詳細な情報を入手することができます。
「農林水産航空事業」
http://www.j3a.or.jp/business/multirotor.html
では、産業用マルチローター技能認定の取得方法について解説していきます。
まずこの資格の対象となる「産業用マルチローター」については農林水産航空協会によって機種が定められています。農薬散布用に販売されているドローンは数多くありますが、日本国内では農林水産航空協会で「産業用マルチローター」として認定されたドローンしか農薬散布に使用できません。
農林水産航空協会で認定されている産業用マルチローターについては公式サイトの方で機種の一覧が確認できます。
「産業用マルチローター機種別性能一覧」
http://www.j3a.or.jp/business/multirotor/5.spec/spec_20190820.pdf
こちらに記載されている機種の1つをみていきましょう。
DJI JAPANがラインナップしている「AGRAS MG-1」の性能はこのようになっています。
機体 | 型式 | MG-1(遠隔/自動) |
名称 | AGRAS MG-1 | |
製造会社名 | DJI JAPAN(株) | |
寸法 | 1471×1471×482mm | |
ローターの数 | 8個 | |
ローターの直径 | 543mm | |
最大離陸重量 | 24.5kg | |
搭載バッテリー | 12S LiPo 12000mAh 1本 | |
飛行時間 | 10分 |
液剤散布装置 | 装置の型式 | SS210 |
装置重量 | 1.87kg | |
ノズルの数 | 4個 | |
吐出量 | 0.8~1.0l/min | |
タンク容量 | 10L | |
粒材散布装置 | 装置の型式 | GS110 |
装置重量 | 1.82kg | |
インペラ径 | 180mm | |
タンク容量 | 10L |
ドローンによる農薬散布を行うには農林水産航空協会で認定を受けた機種を入手しなければなりません。
認定を受けていないドローンでは農薬散布が行えないので注意しましょう。
産業用マルチローター技能認定の取得方法
次に資格の認定方法についてです。産業用マルチローター技能認定は使用する機種ごとに技能認定が発行されます。技能認定を受けたら全ての機種が扱えるというわけではないので注意しましょう。
1つの機種で取得した技能認定では、1つの機種でしか農薬散布が行えません。
そして、技能認定の取得には農林水産航空協会が認定した教習施設での教習を受講します。こちらについても機種ごとに教習施設が異なるので注意しましょう。
機種別の教習施設の一覧については以下のURLから確認できます。
「産業用マルチローター指定教習施設一覧」
http://www.j3a.or.jp/business/multirotor/2sisetsu/sisetsuichiran_20200101.pdf
産業用マルチローター技能認定の基準については以下から確認できます。
「産業用マルチローターオペレーター技能認定基準」
http://www.j3a.or.jp/business/multirotor/1kijun/ginou_kijun_h31.pdf
こちらにて受講資格用件として以下の4つが挙げられています。
- 年齢:この基準7(1)の規定に定める認定推薦状の提出時において、満16才以上であること
- 力・聴力:正常であること(矯正器具の使用により、正常と同等と認められるものを含む)
- 運転免許証その他身分を証明できる公的な書類(又はその写し)が提出できること
- 心身ともにオペレーターとしての適性があると認められること
教習施設では実技と学科の2つが行われ、マルチローターの扱いだけではなく農薬の散布装置に関する操作も学習します。
実技と学科を修了すると、教習施設の責任者から「産業用マルチローターオペレーター教習修了者認定推薦状」が農林水産航空協会長に提出されます。
提出された推薦状を基に「産業用マルチローター技能認定証」が交付されます。
技能認定証の有効期限は交付日から3年となっており、研修を受けることによって更新することができます。
ドローンによる農薬散布業務を行うには必須となる資格でもあるため、農業分野でドローンを活用する仕事を検討している人は「産業用マルチローター技能認定」についてしっかりと理解しておきましょう。
ただ、「産業用マルチローター技能認定」を取得するだけですぐに農薬散布が行えるわけではありません。
「産業用マルチローター技能認定」を取得しただけでは農薬散布は行えない
ドローンから農薬散布を行うということは航空法では「危険物輸送」および「物件投下」に該当するため国土交通省の許可が必要となります。
そのためドローンによる農薬散布には専用の許可申請が必要でそういった手続きに関しても理解しておく必要があります。
許可申請に関する手続きにおいては教習施設や代行業者を活用するのもおすすめです。
空撮カメラマンやドローンレーサーなど花形職業であれば、特に必須となる資格は必要ありませんし、趣味の延長線上で仕事になる可能性もあります。
ただ、ドローンによる農薬散布には「産業用マルチローター技能認定」が必須となるので、農業分野でドローンを活用することを検討している人は覚えておきましょう。
ドローンは農業の効率化、省エネ化など生産性の向上に貢献する可能性が注目されています。今後ドローンに関連する仕事に就くことを考えたときにより堅実で安定的な仕事を選びたいなら農業分野での活躍も考えてみてください。